昭和50年代後半(西暦1980年前半)の初期のPC版二人麻雀について。
昭和50年代半ば(西暦1980年前後)にアマチュアプログラマに依って開発された初期のパソコン向け二人麻雀について。
- 本記事は制作者の曖昧な記憶を基にしておりますので、一部に間違いがある事が予想されます。
初期のPC向け二人麻雀の概要。
マイクロコンピュータが開発され、個人向けのコンピュータが製品化され始めた昭和50年代半ば、その頃から既にコンピュータ麻雀が作られておりましたが、それらは殆どが四人打ちでした。
アップルⅡに二人打ち麻雀のソフトもあったようですが、四人打ちが実現出来た事もあって、わざわざ二人打ちを作ろうと言う発想には至らなかったのです。
二人打ち麻雀がアマチュアに依って開発されるようになったのは、やはり昭和56年(西暦1981年)にアーケード二人麻雀・ジャンピュータ(アルファ電子・三立技研)が開発されたのが契機でした。
つまり、二人打ち麻雀は、当時のアマチュアゲーム作品の多くで見られたように、アーケードゲームのPCゲーム化と言う考えで開発されたのです。
- つまり、ジャンピュータ同様制限時間制のゲームとして開発されました。
- ただ、ジャンピュータを名乗った作品はありませんでした。
このコンセプトで開発された作品の第一号は、昭和57年(西暦1982年)に日立・ベーシックマスターレベルⅢ向けに開発されたザ・麻雀で、その後富士通マイクロエイト(FM-8)や日電・PC-8801及びPC-8001や果てはカシオ計算機・FP-1100にも移植されました。
また、これとほぼ同時期に、今風太さんがPC-ジャン!を日電・PC-8001向けに発表されております(PC-ジャン!は後に同社・PC-8001MkⅡにも移植されました)。
尚、これらの作品は全く別々に、そう、同時進行的に開発されたもので、従ってコード自体には共通点が全くありませんでした。
- 但し、PC-8001版で使用していた麻雀牌のグラフィックは、高嶋晃さんが同機種向けに開発した四人麻雀ソフト向けに作成したものを踏襲しておりました。PC-8001は、グラフィックが非常に粗く、このため高嶋さんのデザインを越えたものを作れる余地が残っていなかったのです。
アーケードと違って、PC界では四人打ち麻雀が既に普及していた事もあり、二人打ち麻雀が普及する要素は殆どなかったようで、結局これら以外に目立った作品が開発される事はありませんでした。
- 脱衣麻雀と言う発想がもう少し早く出ていれば、二人麻雀がPC界を席捲していたかも知れませんが…。
初期のPC向け二人麻雀の四人麻雀より良かった点。
PC向けの麻雀としては二人麻雀は四人麻雀より遙かに作品数が少なかったのですが、二人麻雀には当時の四人麻雀より良かった点も沢山ありました。
- 槓が出来た事
- 当時の四人麻雀は殆どが槓の機能を省略しておりましたが、二人麻雀では槓も可能になっておりました。
- 思考ルーティンを持っていた事
- 当時の四人麻雀はプレイヤ以外全員聴牌していて、時期が来るまで和了しないと言うものでしたが、二人麻雀は単純なものとは言え思考して打っております。
- 役を自動判定してくれた事
- 当時の四人麻雀の中には、役判定を省略していて、和了時に自分で点数を入力しなければならないものがありました。
- 多門待ち立直が可能だった事
- 当時の四人麻雀は、三門以上の待ちの立直は、そのうちの二つのみしか待ちとして指定出来ず、他の待ちは仮令引いても見逃さなければなりませんでした。
- 地和がある事
- 当時の四人麻雀で役を判定する機能を持つ作品は、天和はあっても地和はありませんでした。
四人麻雀も二人麻雀のコードを参考にしたものが出されれば良かったのですが、結局そのような作品は出される事はありませんでした。
ザ・麻雀及びPC-ジャン!の共通の仕様。
昭和57年(1982年)にほぼ同時期に発表された二人麻雀・ザ・麻雀及びPC-ジャン!でしたが、共通の仕様は以下のようなものでした。
- 制限時間制の二人麻雀でした。
- CPUは一切副露しませんでした。プレイヤ側は、吃, ポン, 槓とも自由に出来ました。
- 荘風はなく、門風のみでした。ゲーム開始時はプレイヤが荘家(東家)となり、CPUに和了されると散家(南家)になると言うものでした。
- 喰い断・先付けともありでした。
- 不聴罰符はありませんでした。九種九牌などの途中平局, 十三不搭もありませんでした。
- 立直代は場に千点供託。積み棒はありませんでした。
- 立直に対して、一発と裏ドラがありました。
- 振聴は現物のみ栄和不可。当時は完全に振聴をチェックするのが困難だったとの事です。
- 摸八平和あり(20符計算)、七対子は25符計算でした。
また、プログラミングの点からは双方とも以下のようになっておりました。
- 基本的にBASIC(インタプリタ型の高級言語・当時は構造的な記述は殆ど出来なかった)で記述するが、手の解析や麻雀牌の表示などに機械語を利用しておりました。
ザ・麻雀及びPC-ジャン!で異なっていた仕様。
一方、ザ・麻雀及びPC-ジャン!は完全に同じと言う訳でもありませんでした。
- 効果音
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ザ・麻雀には効果音は殆どありませんでしたが、PC-ジャン!は鳴きや和了などのアクションの度に音楽を演奏しておりました。
- PC-ジャン!での音楽は、ビープ音を操作して音階を出していたものでしたが、まあ賑やかなものではありました。
- タイマ
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ザ・麻雀では、操作の度にタイマの減少が表示されると言う実装でしたが、PC-ジャン!はリアルタイムにタイマの減少が表示されると言うものでした。
和了時の持点・タイマの増減でも、PC-ジャン!ではリアルタイムに増減させる演出をしておりました。
- ドラ
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ドラはいずれも標識牌そのものとなっておりましたが、ザ・麻雀では槓でドラが変わると言う仕様でした。
一方、PC-ジャン!ではドラは槓しても変わりませんでしたが、新ドラが追加される事もありませんでした(槓ドラなし)。
- 暗槓・加槓
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ザ・麻雀では槓コマンド入力後に(仮令槓出来る牌が一種類しかない場合でも)槓牌の指定を行うものとしておりました。
一方、PC-ジャン!では無条件に左側にある槓可能牌を槓するようになっておりました。
- 結果、立直後に槓で聴牌が崩れてしまう事態もあり得るとの事でした。
- 吃
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ザ・麻雀では吃コマンド入力後に(仮令吃出来る組合わせが一組しかない場合でも)吃牌を二枚指定するものとしておりました。
一方、PC-8001版のPC-ジャン!では一組しかない場合は自動的に吃しました。
そして、二組以上ある場合は、吃する二枚のうち一番外側にある牌を一枚指定する事で選択するようになっておりました。
- 但し、PC-8001MkⅡ版ではザ・麻雀同様常に吃する二枚を指定する実装に変更されました。恐らくグラフィックデータが大きくなり過ぎてコードが入り切らなくなったのでしょう。
- 錯和
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ザ・麻雀では形式上和了出来ない場合も和了コマンドを受け付けてしまうため、形式上錯和或いは振聴錯和となる恐れがありました。
一方、PC-ジャン!では形式上和了出来ないや自分が打った現物が出された場合は和了コマンドを受け付けなかったため、形式上錯和や振聴錯和となる事はありませんでした。
- 尚、双方とも現物以外であれば振聴錯和にはなりませんでした。
- 但し、和了入力の可否判定で役判定はしないため、役無し錯和となる事はありました。勿論、ザ・麻雀では形式上錯和や振聴錯和だけでなく、役無し錯和もあり得ました。
- 幺九振切(流し満貫)
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ザ・麻雀では幺九振切(流し満貫)は役満貫としておりました。
一方、PC-ジャン!では幺九振切(流し満貫)は無しとしておりました。
- 今風太さんに拠ると、そんな効率の悪い事をするくらいなら国士無双を狙った方が良いと言う事で敢えて実装しなかったとの事です。
- 和了時
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ザ・麻雀では正確な役判定が出来ない場合がある事を考慮し、間違った判定結果だった場合は手入力で点数を訂正出来るようになっておりました。
PC-ジャン!ではそのような機能はありませんでした。
- 但し、間違って判定される事はあり得るとの事です。
- 和了役
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ザ・麻雀とPC-ジャン!では役に大きな違いがあります。
- 一色三順・一色四順・三連刻・四蓮刻
- いずれもザ・麻雀にはありますが、PC-ジャン!にはありません。
- 大車輪
- ザ・麻雀では両筒から八筒までの七対子となっておりましたが、PC-ジャン!では一筒から七筒までの七対子としておりました。
- 地和
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ザ・麻雀では地和は荘家の第一打での栄和としておりましたが、PC-ジャン!では荘家の第一打での栄和と散家の第一摸牌での和了の双方を地和と判定しておりました。
ザ・麻雀及びPC-ジャン!の思考ルーティン。
当時の四人打ち麻雀ソフトの大半が、予め聴牌した手を与えて、時期が来るまで見逃し続けると言う実装だったのに対し、ザ・麻雀及びPC-ジャン!にはいずれも思考ルーティンが実装されておりました。
もっとも、いずれも出来た門子を落として行って、残った牌から切る牌を撰ぶと言う単純なものでした。
- 恐らく、ジャンピュータもそのような思考ルーティンだったと思います。
基本的にいずれも門子型のみを狙い、国士無双や七対子はやりませんでした。
また、CPUは一切吃・ポン・槓はしませんでした。
ザ・麻雀では聴牌取りにすると言う考えをせず、摸打を繰り返した結果たまたま摸牌前に聴牌している状態になれば、摸牌で和了出来なければ摸切りして立直を掛けると言う実装でした。
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このため、一巡だけ闇聴となります。この間に和了牌がプレイヤから打たれた場合は、
- 断幺九である
- 翻牌の刻子がある
- 混一色か清一色である
- 荘家の第一打である(地和)
のいずれかの場合のみ栄和するようになっておりました。
一方、PC-ジャン!は基本的に必ず立直をして和了すると言うものでしたが、聴牌判定が中途半端だったためか、闇聴となってしまう場合もありました。
その場合でも、基本的に闇聴を想定していないため、和了牌が打たれても栄和しないようになっておりました。
尚、思考ルーティンが貧弱だったため、いずれもある仕掛けをしていたのですが、それについてはここでは触れない事にしましょう。